バレエと座禅

「バレエと座禅が似ている」と言ったら、誰が賛同するだろうか。

 

20代のころに思ったことを、50代の今も、改めてそう思う。

万年初心者である私のバレエのレッスンで、先生に言われることは、

「背筋をまっすぐ伸ばして」

「頭のてっぺんから踵まで、背中がまるで壁にくっついているように」

(自然な背中の湾曲は残しておくんだけれど)

 

座禅で大事なことは、

「頭のてっぺんから尾てい骨まで、体の中に竹筒でも入っているかのように」

背筋を伸ばすこと、と言われた。

 

呼吸も似ている。

どちらも、鼻から吸って口から吐く。

深い呼吸を続ける。

息を止めない。

 

似ていないのは、腹だ。

バレエはお腹の内側の筋肉を引き上げるように、と言われる。

座禅は、お腹に力を入れない。

 

20代のとき通っていたバレエ教室の先生は、

「お相撲さんと一緒ですよ」

と言った。

背筋を伸ばすことが、である。

 

20代のとき座禅を教えてくれた師は、

「スポーツは座禅に似ている」

と言った。

誰かが、

「座禅をしない人が、座禅をする人と同様の境地を得るにはどうしたらいいか」

というような質問をしたときだ。

そのときの答えの意味は、二通りあったと思う。

ひとつは、姿勢。

たいがいのスポーツは背筋を伸ばす姿勢が基本だということ。

膝を屈伸していても、背骨は地面と垂直に立っていないといけない。

もうひとつは、態度。

「打ち込む」ということ。

ただ、ひたすら、それをする、という態度。

只管打坐(しかんたざ)という言葉が、座禅にはある。

ただ、ひたすら、座る、ということ。

 

私はほかのスポーツは苦手だからわからないけど、

「ひたすら打ち込む」ということについても、

バレエは正にその通りだと思う。

ひたすら、レッスンに打ち込む。

バレエの基礎は、実はかなり、きつい。

私たちマゾヒストじゃないかしら、と思うほど、過酷な訓練だ。

ゆっくりした動き、静止状態が、かえって、きついのだ。

ぷるぷる震えたり、だらだら汗を流して、いい年をした女性たちが、真剣な目をして頑張っている。

 

もうひとつ、バレエと座禅の違うところは、場所と時間、費用である。

バレエは教室に通わないとできない。

家でバレエの練習をすると、たいていの人が、怪我をする。

教室に通うということは、まとまった時間が必要で、

先生に支払うレッスン料も必要だ。

だから、私は長い間、バレエをお休みした。

 

座禅は、場所と時間を選ばない。

費用はただ。

場所はどこでも、半畳の広さがあればいい。

時間はいつでも、何分でもいい。

1回45分が理想と言われて、10年間、続けたことがある。

だが2度目の出産で、45分続けることが不可能になった。

それまでは夜寝る前と、朝、起きたときに座禅をしていたが、

出産後は赤ん坊が自分のそばにいつも寝ていて、

赤ん坊が泣けば、乳をやらなければならない。

おしめを取り替えなければならない。

「ああ、もう座禅ができなくなった」

と、しばらく諦めていた。

 

が、ある日、思った。

そうか、45分じゃなくても、別にいいんだ。

初期のころを思い出そう。

座禅を教えてくれた人たちは、

1ヵ月に1度、1時間座禅をするより、

5分でも、毎日する方が良い、と言っていたっけ。

そうだ。

最初のころは自分も、いきなり長い時間は続けられなくて、

最初は5分、次に10分、その次は20分とだんだん増やしていったではないか。

家庭生活に追われる今は、1日10分でも、やらないより、やった方がいい。

 

それからは、なるべく、朝10分の座禅をするようにしている。

できない日もある。

やらないと、なんだか気持ち悪い。

 

座禅をしているからって、悟っているわけでは、全然ない。

怒りもすれば、落ち込みもする。

夫と喧嘩する。

欲求不満に陥る。

職場で不愉快な思いもする。

でも、座禅しなかったら、私の場合はもっと酷いのではないか、と思う。

 

座禅もバレエも両方できる今は、恵まれているんだろうな。

体も心も健康に、近づいていってるんじゃないかな。

 

西洋の踊りであるバレエと、

東洋の修行である座禅。

まったく異なる世界のようでいて、

実はとっても似ている。