映画『愛と喝采の日々』を観て The Turning Point
『愛と喝采の日々』The Turning Pointを観た。1977年の映画だ。現在2019年。42年前の映画だ。だが、今なお古くて新しいテーマだと思った。
この映画は単純に「家庭か仕事か」ではない。
シャーリー・マクレーン扮するディーディーは「家庭と仕事を両立」させている。夫は元バレエ団の仲間。彼とともに、好きな事を仕事にして(バレエ教室を経営)、子供たち3人と幸せに暮らしている。
問題は、その好きな事(バレエ)を極めたかどうか、である。
かつての恋のライバルそしてプリマドンナを争うライバルであったエマは、結婚せず同バレエ団のプリマドンナとして生き続けた。だが、もうそろそろ引退の時が近づいていた。
その二人の葛藤を軸に、ディーディーの娘のエミリアを含めて、物語は展開していく。
奇しくも、つい先日、女友達Cがこう言った。
「家庭に縛られず、芸術活動だけしていられる人を見ると、嫉妬する」
もちろん、Cは子供を持ったことを後悔はしていないのだが、と付け加えた。
それは私も同じだ。子供3人を持ったことを、喜ばしく思えこそ、後悔はしていない。
だが自分で選んだ道ではあるが、自分が家庭生活のために割いている時間(他の女性と比べて短く、かつ雑かもしれないが…)を、しばしば激しく、恨めしく思う。
友人Yは自分が何をしたいか、若いころからはっきりとした考えを持っていた。結婚を一度はしたが、芸術の道を進むために解消した。二度目の(私が知っている範囲で)結婚のチャンスも、家庭に縛られることを予測した途端に、深く悲しみながらも破綻への道を突き進んでしまった。
彼女は、今では有名作家で裕福、というわけではないけれど、60歳近い今も確実に自分の道を歩み続けている。彼女の作品を認め、支援する画廊がある。
何十年かぶりにYに会ったとき、なぜ私が結婚(再婚)の道を選んだか、純粋に不可思議なことに対する疑問という形で質問された。それに、この場で答え始めると長くなるのでやめておく。友人Cにしても、まあ、いろいろあって、妊娠そして出産となり、現在は小学生の男の子を育てているのだ。
問題は、なぜ私たち女性は、今も昔も、この問題で悩まなければならないのか、ということだ。もちろん、今では普通の「仕事と家庭の両立」のみならず、女性でも大統領や首相といった職業と家庭生活を両立できることが証明されているが…。
男性は家庭と仕事の両立が、私たち女性より、確実に容易にできる。
…と言いたかったが、はたと気づいた。
男性でも、家庭生活のために芸術活動をあきらめる人もいる。
妻子を養うために、筆を折り、飲食店を始めた人。
一方で、妻子にひもじい思いをさせても、書家としての道を究めた人もいた。
やはり、才能、運、運命…いろいろなものがあって、性別に関わりなく、人それぞれに与えられた環境、課題があるのかもしれない。
私がこの映画を観た感想を「男はいいわよね」的なものにしようとしている自分の心の奥底を探ってみると、やはりそこには『嫉妬』がある。
この映画のもうひとつのテーマは、嫉妬だ。
自分が選ばなかったことで、得られなかった人生に対する、嫉妬。
ディーディーは家庭を選んだために、プリマドンナになれなかった。
エマはバレエを選び、結婚を諦めた。そして、その最盛期が終わろうとしている今は寂しさを感じている。
映画のクライマックスでは、このふたりの女性が、冷たい口論から始まり、激昂し、ついには激しい肉弾戦となる。
そして、自分たちでおかしくなって、笑い出してしまう。そして、ベンチに座って言う。
「嫉妬って、恐ろしいわね」
私の嫉妬の対象は、友人ではなく、夫だ。
夫はもうすでに「ひと仕事」終えている。
小さい会社だが、長年、社長として勤め上げ、ある程度の人々から尊敬され、今ではそこそこ余裕のある年金暮らし。年齢的に遅くはあったが私と結婚して、子供が出来、念願の『家庭』というものを築いた。
私に家庭はあるが、まだ何も、成し得ていない。
いや、成し遂げたことを数えてみれば、いくつかはあるのだが、まだまだ足りないと思っている自分がいる。
自分がずっと持ち続けている夢を、まだ叶えていない。というより、そろそろ諦めてもいいかもしれないその夢を、諦めないで持ち続けている。
あるいは、世の中から認められていない、と感じている。
自分が成し得た小さなことのいくつかは、世間様にとっては取るに足りないことだと感じている。
認められたい、という自分がいるということか。
そう言えば、さっきのクライマックスのシーンで最高なのは、ディーディーが感極まって泣くところである。「何十年間も、欲しかったのよ、その言葉が」
エマに自分が「認められた」と感じることのできた瞬間だ。
実はこの映画、前に録画してあったものを、夫と一緒に観たのだ。
夫はとくに感想がなさそうだ。
途中で居眠りさえしていた。
感想は?と訊くと「踊りが上手かったな」ぐらい。
確かに…。あれは圧巻だった。
英語でしかもバレエ物。私の好きなことばかり。よく、夫がつき合ってくれた。それに感謝もせずに「あんたは男でいいわよね」「あなたはもうひと仕事成し遂げた人だから」と私は思う。
私は映画もテレビ番組も、日常生活の中でほとんど見ない。そして、ひとつ見ると、こうして、考える。それからでないと、次に行けない。
夫は、一日に何本も、録画したテレビ番組や映画を見る。
感想はないの? 考えないの?
と私はやや侮蔑的に思う。
しかし、それは人のタイプとしての違いだ。
私が、自分と違うタイプの夫のことを、受け入れられないでいるから「やや侮蔑的」な目で彼を見るのだ。
社会的にも認められ、家庭も持った、人生に満足してのんびりしている夫に嫉妬するのも、自分と違う人のことを、そのまま受け入れられずにいるから…。
最初に、自分で言ったじゃないか。
この映画は単純に「家庭か仕事か」ではない。
…確かに、その通りでした。
いろいろ、考えさせられました。
ちなみにこの映画の原題はthe turning point『折り返し地点』
娘の成長とか世代交代とか、ほかにもいろいろ考えるテーマはありそうですね。
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