掘り出し物
根がケチなせいかもしれない。
投げ銭ライブなんて聞くと、行きたくなる。
9月6日、2日前に「急遽、決まりました」との事でFacebookに投稿があった。京町カフェYYという、福井市順化の外れにある店で午後3時より。オーナーの清水さんは元高校教諭。かつての生徒が福井に帰省中というので、その子に演奏させるという。
こういう投稿を見て「行こう」と思う時、「当たり」なことが多い。勘が働くのか。
京町カフェさんは駐車場がないので、バスで行く。
最近、福井市内を走るこの『すまいるバス』というのにも、ちょっとハマっている。100円で、その区間内はどこでも行ける。
やっぱりケチだ。
掘り出し物が好き。
それも、ケチなせいか。
いや、それもあるかもしれないが、第一発見者になりたいという気持ちが強い。
旅でも同じ。
風光明媚な観光地は避けたい。
みんながいいという、太鼓判を押された景勝地は、確かに良いのかもしれないが、面白くない。
自分がこれを発見した! という喜びが欲しい。
独占欲が強いのか。
無名の演奏家。
上手いか下手か、わからない。
私にとって好みかそうじゃないか、わからない。
ガラクタか、お宝か。
聴いてみなけりゃ、わからない。
原石。
磨いてみなけりゃ、わからない。
ただの石っころか、宝石か。
磨けば玉となる原石に出会うのが好き。
未完成な状態のものが好き。
完成されて、有名になって、みんながいいと言うものには、あまり惹かれない。
女の子の方は、三原万里子さん。昭和音楽大学を卒業して、もうすでに東京でプロとして活動しているらしいが、男の子はまだ福井大学の学生で、これから大学院の試験を受けるという、大森響介さん。三原さんの中学時代の同級生とか。
ふたりとも普段着で現れて、見た目からは渋みとか味とか期待できない人たちだったが、その予測を大きく裏切り、ああ、なんと渋い演奏を聴かせてくれたことか!
そして、ふたりとも作曲の才能がある。
声の音域が広い。
まるで旅の途中の原っぱで、人知れず咲く二輪の美しい花を発見したような。
木々が鬱蒼と茂る山道の途中で、せせらぎの脇に咲く二輪の珍しい花を発見したような。
それは美しく可憐なだけでなく、不思議と妖艶でもあった。
歌詞や旋律の大人びた感じが彼らの見た目とアンバランス。
健全な福井の町で、普段の生活で、触れてこなかったものに触れた。
都会の匂い。
しかし、ここは田舎。
バスは1時間に2本。
その時間に合わせて外に出ると、まだ日の高い外は残暑が酷かった。
バスに乗り込むと、意外と多くの人が乗っていて、座る席がなさそう。…と思っていたら、気のいいお婆さんが、私に手招きをして、隣の席に座らせてくれた。
反対側の手すりを見ると、そこに傘がかけてある。
誰かの忘れ物だろうかと見ていると、「私の」と言ってその痩せたお婆さんはにこにこしている。彼女が私の右側に座っていて、私がいて、私の左側の手すりに、傘。私が持っている傘と同じ柄で色違いだ。
彼女が先に降りるなら、とってあげようと思っていたが、私の方が先に降りた。
彼女に会釈をして、笑顔を交わして降りる。
「ありがとう」とバスの運転手に言う。
このバスに乗る多くの人たちがそう言うのに習って…。
19年前に、初めて夫と出会った時のことを微かに思い出す。
「僕の住む福井県では、お店のお客さんも、お店の人に対して『ありがとう』って言うんですよ」
お金を受け取るお店の人がお客にありがとうと言うのは当たり前だけど、他の県ではお客は「ありがとう」と普通、言わないのだと聞いた…とかつての見知らぬ福井県人は言った。
あの出会いも、旅の途中だった。
私は東京から、彼は福井から、旅に出ていた。
屋久島へ向かう船の上、2000年の12月31日。
私たちはガラクタどうし、みつけ合って、あの時はお宝と思えたものだが、今はすっかり恋の魔法が解けて、ガラクタはガラクタにしか見えない。
割れ鍋に綴じ蓋とはこのことか。
…若いお宝を見つけた話から、なんと古いガラクタどうしの話になってしま
った。
今からでも磨き直せば、光るかなぁ…。(お互いにね)
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