琵琶湖に昇る朝日      旅に出て 2020年1月

                                                                                    2020年1月20日~22日 ひとり旅②
 ふと顔を上げたときだった。
 黒い雲の隙間から、赤い陽が漏れていた。
 自分が座っているのとは反対の、左手の車窓から、見えた。
 左側に座っている人たちを見たが、誰も気づいていない。
 ほぼ全員がうつむいてスマホを見ている。
 「皆さん、朝日がきれいですよ」
 と声に出して言いたかったが、そこはこらえた。

 1月20日朝6時20分、福井発、京都方面行きのサンダーバード号に乗った車内で、それまで私は時刻表を一生懸命、見ていた。

  

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 目的地、四国までの行程を、ひと通り確認して、顔を上げた瞬間だった。
 時刻は7時20分ごろ、近江今津(おうみいまづ)を通過したころだ。
 もっとよく朝日を見ようと、私は立ち上がった。
 真っ赤な太陽は、雲の間から顔を出し、湖面に赤い陽が映った。
 なんて美しいのだろう。

 もう、我慢できない。

 左側の空いている席へ、移動した。
 その席の前に座っていた青年が、私の動きに気づいて、ちらと後ろを見るようなそぶりをしたが、すぐにスマホに目を戻した。

「お母さん、美味しいものを食べに行くのじゃなくて、何が楽しくて旅に出るの?」と次女が、私が旅立つ前に聞いた。
 あの時、うまく答えられなかったが、今、それに答えられる。
 
…こういう瞬間がね、好きなのよ。
 旅に出て、思いがけず、美しいものに出会ったとき…。

 朝日が美しく燃える時間はとても短い。
 あっという間に、陽は高く昇り、湖面は普通通りに戻る。

 スマホで撮っても、その感動は伝えられない。
 私は写真を撮るのが下手だ。
 
 後で、インターネットで探すと、琵琶湖に朝日が昇る様をきれいに撮った人がいた。それを、ここに載せる。あの車内にはいなかったけど、こうして、琵琶湖に昇る朝日に感動している人は、私以外にもいるのだ。

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https://blog.goo.ne.jp/5241065/e/3b366552133d74532955e0ee18ed79b4 より転写

 

 

 19歳のとき、初めてひとり旅に出た。
 あの時も、京都に向かっていた。
 秋の早朝、各駅停車の国領(こくりょう)駅まで歩いて行った。あのころ私は東京に住んでいた。電車賃を節約しようと、鈍行列車で京都まで行く計画を立てた。アンティークショップで買った、四角い牛革の旅行鞄を下げて…。国領駅まで、自宅から徒歩で20分かかった。バス代も節約しようとしたのか、朝早すぎて、まだバスが出ていなかったのか…。
 国領駅を出た電車が、新宿に近づき、高層ビルが立ち並ぶ景色に差し掛かったときのことだ。そのビルの谷間から、朝日が昇った。ビルの窓ガラスに赤い陽が映った。

 

 あの時と同じ感動を、56歳で味わった。

 

 #旅    #琵琶湖 #朝日 #時刻表